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株式会社ヒューマンインタフェース代表取締役 小畑 貢 が使い手の世界についてのお話をお送りします。
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問題を見逃さないテストデザイン 15 最悪のシナリオ-4

最悪のシナリオ 4


製品の弱点を現実化しやすくするタスク以外の要素について考えましょう。


 


要素2
弱点を現実化しやすい空間環境要素


 


(1)劣悪な照明条件
自然災害の多い日本では停電は珍しいことではありません。以前に、医療機器のユーザビリティテストをしたとき、参加してくれた看護師の多くは勤務中の医療機関で停電を経験していました。バックアップの電源に切り替わっていつものように医療機器を使える場合もあるが、懐中電灯の薄暗い光の中で医療機器を使うことは少しも珍しいことではないと口を揃えて話してくれました。医療機関でも在宅医療の現場でも、災害が発生し停電になったときには、それとは関係なく患者の状態を確認し医療行為を続けなければなりません。
  さまざまな立地条件の場所に設置される設備機器、例えばガソリンスタンドや電気自動車の充電スタンドでは液晶画面が使われていますが、季節、天気、時間によっては陽射しの強い反射光があるかもしれません。
  暗い照明条件、反射のある照明条件、正面から光が差し込む中での作業、外の陽射しが降り注ぐ中での作業など、劣悪な照明条件は製品の弱点を現実化しやすくします。
 (2)振動
道具によっては振動する環境で使われます。飛行機、船、電車、バス、トラック、自動車、自転車など移動手段はたいてい振動しますし、その中で使われる製品は揺られながら使われます。あなたも通勤途中、電車やバスに揺られながらスマートフォンを使っていることと思います。振動しながら道具を使うと、意図しないミスが起きやすいのはご存じの通りです。
  例えば、スマートフォンの画面に横一列に、「A」「B」「C」「D」「E 」と、5つのボタンが表示された製品を思い浮かべてください。操作はもちろん軽くタッチするだけです。そしてもうひとつ、同じサイズの同じボタンが物理的な押しボタンだった場合を思い浮かべてください。操作にはある程度の押し込む力が必要です。あなたが揺れる電車やバスの座席に座って操作するとしたら、操作ミスはどちらが起こりやすいと思いますか?当然タッチ操作の方ですね。手元が狂い指先の動きが不安定になると操作ミスを起こしやすい。これはタッチ操作を採用しているスマートフォンの弱点です。振動する環境の中では、弱点が現実化しやすくなります。
  余談ですが、スマートフォンでは、電源を入れる切る、電話をかける切る、こうした重要な操作は単純なタッチ操作ではありません。あなたのスマートフォンもそうではありませんか?


 (3)騒音
交通量の多い道路の近くで使われたり、工事現場で使われる機器は、騒音の中で使われますから通常のエラー音、警報音、操作案内音声などはとても気づきにくくなりますからそういう環境に対応した製品な作りがされています。しかし、普段は静かな環境で使われるものでも何かの場合には騒音の中で使われる、そういう可能性がある製品の場合は、製品の弱点を現実化しやすくなります。


(4)降雨、降雪
製品によっては雨や雪が降る中で使われるものもあります。傘やスキー用具は普通にそういう環境で使われますが、普段は雨や雪の中では使われないが何かの場合にはそういう環境でも使われる製品では、製品の弱点を現実化しやすくする要素になり得ます。


(5)狭い作業空間
身体の向きを変える、腕を自由に動かす、こうした姿勢変更がやりにくい狭い隙間で製品を使わざるを得ないような空間です。自動車のドアの場合、普通に車を止め運転席のドアを開けて外に出る作業は簡単にできますが、運悪く隣に接近して他の車が止められていたらドアを開けて運転席に乗り込む作業はとても困難が伴います。このように何かが起こって、その結果急に困難になるケースです。こうした場合も製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


要素3
弱点を現実化する社会環境要素
この要素は要素1タスク要素の背景と見なすことができるようです。
(1)24時間、全日稼働
社会のさまざまな分野で24時間稼働と休日なしの全日稼働が進んでいます。
毎日、午前9時頃から夕方まで仕事する、社会はそういう人々ばかりではありません。事件担当の警察官は自宅で睡眠中であっても事件が発生するとすぐに駆けつけ仕事につきます。状況によっては相当長時間仕事を続けます。小売業やサービス業、公共交通機関、医療機関、介護サービス機関などはシフトを組んで交替で仕事につきますから途中交替その他の事情によって製品の弱点が現実化しやすくなります。
(2)転職
日本は雇用の流動性がスムーズではなく、まだまだ一つの会社から別の会社に移る人はそれほど多くはありません。それでも、以前と比べるとかなり流動的になっています。また、働き方の形もいろいろになってきました。先に述べた薬剤師は、直前に勤務していた職場での体験が災いし、患者に渡す薬を間違えました。看護師が結婚して子供ができたときに退職し、その子供が成長してから仕事に復帰すると、一つの固定した医療機関で継続的に働くのではなく、短期間ずついろいろな医療機関で働くケースが結構あります。1週間に2つ、3つの職場で1日ずつアルバイトする若者も珍しくありません。これらのことも製品の弱点を現実化しやすくします。


 


要素4
弱点を現実化するユーザーの要素

道具を使う人のプロフィールによって製品の弱点が現実化しやすくなることもあります。では、どんな人が当てはまるでしょうか?


(1)性質
普通では考えられない、困った結果を引き起こす可能性を秘めている、そういう人はどんな人でしょうか?理性的というより感情的、早合点、行動的、楽観的、何より普段の道具を使う生活の中で、いろいろと事件や失敗を経験している人でしょう。そういう性質の人は製品の弱点を現実化しやすいでしょう。


 


(2)身体能力(身長、体重、握力、視力、聴力、利き手)
力の弱い人は、掃除機をゴロゴロ引っ張りながら掃除するとき普通の人の数倍も掃除機の重さを感じるでしょう。それでも掃除しなければならないとき、どこかで無理をするかもしれません。逆にとても腕力の強い人も、私たちの予想を越えた道具の扱いをするかもしれません。
視力の弱い人は、普通の人より対象物に目を近づけて見ます。道具を使って作業するときも、同じです。近づけられない場合には、確認に長い時間をかけたり、曖昧なまま判断してしまうことも多くなります。
身長の低い人は、たいてい手も小さいものです。携帯電話やスマートフォンの物理的な使いやすさを被験者を使って比較評価するとき、私たちは手のサイズの標準的な被験者群の他に、とても手が大きい被験者群、とても手が小さい被験者群でテストします。人の身体の計測データは、たいてい公表されていますから私たちは、100人の中で大きい5人、小さい5人に該当する人を選んでテストをすることができます。このように普通の人と比べて極端に異なる身体能力の持ち主は、製品の弱点を現実化しやすいと思われます。


 


(3)経験、知識(類似製品の使用経験、類似タスクの経験)
類似製品を使ったことがなく、正しい使い方について知識を持っていない人たちは、知識を持っている人たちよりも私たちの予想を越える使い方をします。タスクの経験についても同じことが言えます。例えば、掃除経験の豊富な人はトラブルにつながる使い方は、まずしないと思いますが、掃除経験の少ない人は私たちの予想を越える使い方をする可能性が高いと言えます。したがって経験や知識が一般の人より少ない人や偏っている人、こういう人は製品の弱点を現実化しやすい人といえます。
 携帯電話やスマートフォンのように、ユーザーが次々に機種を乗り換えて使う製品の場合、ユーザーは直前までその機種の操作方法に慣れていますから、新しい操作方法に戸惑うケースもあります。その差が重要な結果に直結する場合もないとは言えません。
 先に、私たちが道具を使う操作には、意図する操作と意図しない操作があると言いましたが、別の見方をすると、認知的な操作と反射的な操作があります。スマートフォンや携帯電話で私たちが誰かにメールを出す場合、どの操作が認知的でどの操作が反射的でしょうか?メニューからメール機能を選ぶ、新規作成機能を選ぶ、宛名欄に相手のメールアドレスを選ぶ、これらの操作は認知的です。選択肢の意味を理解し、判断した上で操作を続けています。その後、本文の言葉を生み出すまでは認知的ですが、次々に文字を入力する操作は、いちいち考え判断してというより、指先が勝手に動いて反射的に操作しています。先に使っていた製品の操作方法のうち、とくに反射的操作は、あなたも経験した通り、ある時から新しいやり方に変えるといっても簡単には変えられません。反射的操作をして、長い時間作業を継続するようなケースでは、その中で繰り返す操作方法を変更するのは容易ではありません。
とくに、例えば工作機械の危険回避時に使う、赤い緊急停止ボタンのように、緊急時対応の操作ではユーザーの頭と指先に深く刻み込まれた従来の操作方法を変更するのは大変なことです。


(4)身体的疲労、痛み、
腰痛を抱える人、膝の痛みを抱える人は、前屈みや膝をつく姿勢の必要な道具使いは困難が伴います。疲労や身体的痛みも製品の弱点を現実化しやすくすると思われます。


低周波で治療する道具がすでに市販され多くの人々が健康維持するために使っています。人の身体に直接パッドを貼って、コリや痛みを軽減、解消するヘルスケア用品です。この製品は、一定の禁止事項は守って使わなければなりません。禁止事項の一つに「左右のふくらはぎに同時にパッドを貼って治療してはならない」ということがあります。長時間の立ち作業やランニングなどで、両脚ともに疲労している。こういう状態の人はやってみたくなるかもしれません。このように身体的疲労や痛みも製品の弱点を現実化しやすくする要素です。


 
******ご質問、お問い合わせなどございましたら、コメント欄よりお寄せください。非公開設定も可能です。メールアドレスをご記入頂ければ個別に回答差し上げます。


 

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お知らせ 4

お知らせ 4

今日9/28、「私の血圧計体験」を掲載しました。
健康だった私が突然、高血圧になって血圧計と付き合う数年間のことを紹介しています。

一人のユーザーと血圧計の関り方の一例として参考にしていただければ幸いです。家庭用血圧計を開発される方には、何かお役に立つことがあるかもしれません。血圧計と関りのない方にはひとりのユーザーが道具を使うときの状況の一例として、参考にしていただければ幸いです。

ご意見、ご感想、質問などいただければ大変うれしい限りです。
私の血圧計体験-1

私の血圧計体験-1

これは私が血圧計を使いながら高血圧の症状を少しずつ軽減してきた4年間の出来事です。一人のユーザーと血圧計の関り方の一例として参考にしていただければ幸いです。家庭用血圧計や医療機器、ヘルスケア製品を開発される方には、何かお役に立つことがあるかもしれません。
血圧計と関りのない方にはひとりのユーザーが道具を使うときの状況の一例として、参考にしていただければ幸いです。ご意見、ご感想、質問などいただければ大変うれしい限りです。

       


突然高血圧になった

4年前の11月ごろの昼休み、私は船橋駅近くの中華のお店でひとり昼食を取りました。4分の3ほど食べ終わったときに突然気分が悪くなり、冷や汗が身体中から出てきました。不本意ながら少し残してしまいました。店を出て会社に戻ろうと歩くときになぜか、とてもゆっくりゆっくりとしか歩けません。会社までは普通に歩いて10分くらいの距離です。34分くらいそうやってゆっくり歩いているうちに気分は元に戻り、何事も無かったように普通に戻りました。


 それから、3日くらい後の夜、私は妻と一緒に車で出かけお店で食事をしました。食事が半分くらい済んだときに、またしても突然気分が悪くなり、前回よりひどく冷や汗が吹き出てきました。駐車場に置いた自分の車のところまでひとりでは歩けず、妻の肩につかまりながら歩きました。


 数日後、つくば大学病院に行きました。そこでわかったことは血圧が190もあってすぐに血圧を下げる必要があるということでした。私のもともとの血圧は120くらいで、いままで1回も高かったことはありません。突然高血圧になったということです。


自宅か職場の近くで病院に通うこと。紹介状を書くのでそれを持っていくこと。できる限り日頃運動をすること。食事の塩分をひかえること。血圧計を買って毎日自宅で血圧を測ること。------これだけのことを医師に言われました。血圧計ってどんなものを買えばいいのですかと先生に訊ねると「1万円くらいのものなら何でもいいです」という答えが返ってきました。

血圧計を買う
翌日、JR船橋駅前の家電量販店に行きました。血圧計は20種類くらい並べてありました。毎日測るということなので、外出したり旅行したりするときもカバンにいれて運びやすいものにしたいと考えました。
 腕帯を巻くタイプ、それよりもっと小さなタイプ、腕を輪の中に通す大きいタイプがありました。私は大きいのはまず止めようと思いました。次に小さいのは測り方で測定値が変わりやすい気がして、安心な腕帯タイプにしました。その中でシンプルで、表示の見やすい
1万円くらいの機種を選びました。選んだ機種には「記憶」というボタンがあって測定した結果を後で見ることかできると思いました。一応、電池の入れ方はフタを開けて確認しました。近くに店員さんはいなかったのでさっさと決めて買いました。

使い始める

次の日、職場の近くの病院に行きました。血圧は170くらいでした。薬を毎日2錠飲むように言われました。薬局で薬のほかに血圧を毎日記録する手帳をもらいました。手帳には腕帯を肘の線から2センチくらいあけて巻くように書いてありますが、私は身長が低く腕も短いのでなかなかやりにくい、とくに12月の寒い季節だったので長袖の服を着ていてそれを途中まで脱いで腕帯を巻くのがとても面倒でした。それよりなにより、上腕の下の線から2センチあいてない状態で測ってもいいのかとそれが不安で、何回も測りなおししました。腕帯の幅がもう少し狭いタイプを買えばよかったと思いましたが後の祭りです。
 測るたびに少しずつ血圧が変わるので、そのときの一番低い値を手帳に記録しました。もうひとつ、測定を開始すると腕帯が腕をかなり強く圧迫します。想像以上の結構な強さで締め付けるので大丈夫かなと少し不安もありましたがこれはすぐに慣れましたし、ちゃんと測っているという実感が持てました。


 私は、血圧計の取説はまったく見た記憶がありません。ざっとは見たようにも思いますが見たとしたら、腕帯の巻き方、あとはどの高さに血圧計をおいて測るかという内容くらいです。この2点はとても気になりました。高さを心臓と同じにするのは血圧計本体ではなく腕帯だと数日後に気づきました。これは取説を見て気づいたのだと思います。

結果をPCに入力

はじめの頃、毎日朝と夜、2回ずつ血圧を測りました。私はそれを自宅のPCExcelに入力しました。測定した数値をまずExcelに入力し、その後手帳に記入しました。しかし、二重記録は面倒になり手帳記入を止めました。


血圧測定後、表示されている数値を見て直接PCに入力します。あるとき、血圧を測定後にPCが立ち上がっておらず立ち上げに手間取りました。PCが立ち上がり、それからPC入力しようとしたとき、表示されていた測定値がすでに消えていてもう一度測定しなおすことになりました。その後、まずPCを立ち上げておいて、測定したら他のことはせずに大急ぎでPC入力することになりました。


 半月くらいして、測定したら先ず手帳に記録して、それを1週間とかまとめてPCに入力するようになり、グラフにもしました。グラフを作るのは2年くらい続きました。グラフを見ると徐々にではあるが確実に血圧が下がっていることがわかりました。はじめは月間の最高血圧が170台の後半だったのが、170台前半になり、160台になっていく様子がよくわかります。薬をきちんと飲んで塩分の少ない食事、そういうことの効果が見えて毎日の血圧測定は苦ではありません。

記憶/呼出
私は自分が買った血圧計は自動的に測定データが記憶されるものと思っていましたので、「記憶」ボタンを押してみたのですが、表示される数値はピンとこない数値ばかりでわけがわかりません。そういえば、日時設定もしていませんし、するようにもなっていないようです。これは私にとってなぞの機能でした。取り説で調べてみようとは思いませんでした。こんなことは製品を見てわかるくらいのことだという思いが先立って、取り説で調べようとは思いませんでした。そのうち、取り説がどこかに消え、見当たらなくなり調べることはできなくなりました。
      
 

測定結果が表示されると同時に画面下中央部に「記憶」という文字が現れ点滅を繰り返します。この点滅を私は血圧計が何かを処理中である、多分、自動的に測定結果を記憶中らしいと解釈しました。ずっと後になってわかったのですが、この点滅は「いま 「記憶/呼び出し」ボタンを押せば測定結果を記憶しますよ」と言うお知らせだったのです。

(続く)

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スマホ 使いはじめ70日間の記録-21

66日目 電車
受け取ったメールに返信する方法で初めてメールを送った。
まだ 自分が送ったメールを確認する仕方はわからない。 しかし 相手からメールを受け取ったとの電話を貰ったので上手く送信出来たとわかった。
危うい体験をした。
受信メールのリスト画面の右上に 封筒アイコンがある 何だろう新規メールを作れる機能かな、  と少し期待もあってそのアイコンをタッチして見た。 すると直ぐに 何かが送信されているような表示が現れたので慌てて止めた。

DoCoMoのお店に行った。 メールの設定がわからないので聞きに行った。  会社で仕事用に使っているメールアドレスを使ってスマートフォンからメールのやり取りをしたいこと、 取り扱い説明書を見たが 手順の1 「プロバイダと契約する」 は私の場合は済んでいるのか、 お店でスマートフォンを買ったときにその手続きは済んでいるのではないか どう判断したらいいのか、  私はこのスマートフォンでメールはやってなかったが インターネットであちこちニュースを見たりしている 何らかのプロバイダと契約しサービスを受けていることは確かだ。 

お店のお姉さんの答は簡単だった。 私が会社で使っているメールのサービスを提供しているプロバイダのことです。  従って そのアカウントとパスワードが必要です、  と言う答だった。  私はやっと理解した。  そんならそうと 一言、 取り扱い説明書に書いててくれるのが当然だろう。  どんなユーザを想定してこの取り扱い説明書は書いているのか、  高い金額を払って買ってくれたユーザを何と言う扱いか。 腹立つ。


問題を見逃さないテストデザイン 14 最悪のシナリオ-3

最悪のシナリオ-3
製品の弱点を現実化しやすくする要素


たいていの製品は多かれ少なかれ、弱点を持っています。しかし、弱点があっても即、不幸な結果に繋がるわけではありません。弱点が現実のものとなり不幸な結果が起こってしまうには、弱点を現実化しやすくする条件が整う必要があります。では、弱点を現実化しやすい条件とはどんなことでしょうか?
これを参考にして私たちは、ユーザビリティテストの状況設定をすることができます。


 


要素1
弱点を現実化するタスク要素


 


タスクの内容に関してはどうでしょうか?あなたは、どういう要素を持つタスクが弱点を現実化しやすくすると思いますか?
一つでも二つでも思いつくことはどんなことでしょうか?


●マルチタスク
人が片手でスマートフォンを持ち、画面を見ながら道を歩く、T字路を通りすぎ、二つ目のT 字路にさしかかったところで、立ち止まりあわてて一つ目の角に戻って曲がって行く。こんな風景は珍しくありません。通い慣れた道でも何か別のことをしながらでは、やり過ごすのもうなづけるというものです。
このように、2つ、または3つのタスクを同時並行で行う、こういう要素のあるタスクでは、ひとつひとつのタスクに注意が行き届きにくく、製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


 余談ですが、娘が結婚する前、我が家には車を運転できる人が3人いました。娘と妻は運転が上手く発進も停止も静かでスムースです。その点、私の運転はとくに停止するとき、乗っている人の上体がカックンとなり気持ち悪いと評判が悪いのです。運転している私自身はとくに不具合は感じないのですが、いつも言われます。中でも娘は、運転中によくしゃべります。運転しながら込み入った会話を長々とするので私は、しばしば、話はいい加減にして運転に集中してくれと言います。娘は、決まって、運転なんて話ながらするものだ、黙ってやるもんじゃないと教習所の教官に教えられたと反論します。確かに運転は私より上手いので私はそれ以上言えません。
 電車やバスなどの公共交通機関の運転手は、マルチタスクの得意な人でないと困ります。大勢の命を預かる運転手は安全を守ることと 、ダイヤを守ること、二つの重要なタスクに取り組み続けます。どちらか一つに集中することはできません。
 
 ところであなたは、同時に二つ以上のことに注意をし続けるのは得意ですか?これについては個人差が大きいようで、普通にやれる人と不得意な人がいるようです。不得意な人に、マルチタスクをやってもらうと製品の弱点を、より現実化しやすくなりそうです。


 


11目標設定-2、マルチタスクを参考にしてください。


 


●繰返しタスク
同じ作業を繰り返し続けていると人は眠くなることがあります。その作業が単調であればあるほど集中を維持するのは困難になり、対象物への注意が散漫になって、使用ミスが生じやすくなります。単調な空いている道路を長い時間運転し続けると、人は居眠り運転しやすくなる。これは多くの人々が経験していることだと思います。単調な作業であっても、物理的作業の場合は身体の一部を動かしながら一定の作業を繰り返すことで、リズムが生まれる効果もありそうですが、身体の動きが少ない認知的な繰り返し作業となるとそうそう適度な集中を維持するのは難しくなります。
 このような要素をもったタスクを設定することで、被験者が集中力を半減させる状況を作り、製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


●緊急時タスク
タスクの時間が強く制限され、非常に急いでタスクを行わなければならないケースも私たちは、細心の注意を払ってタスクを行ことができません。
例えば、不意に予想してなかった来客があるケース、自宅でリラックスしていたあなたに知人から電話があり「途中まで来ている、あと10分で着きます」。部屋を散らかしていたあなたは大急ぎで掃除機を使い、テーブルの上を片付けます。丁寧に、隅々までしっかり確認しながら作業する場合ではありません。
  かなり前、ファクシミリがビジネスの高速情報伝達の主役だった頃があります。A4判1ページを1分で 送ることができました。代表的な使い方の一つに、見積書を送るという使い方がありましたが、送信するとき相手先の電話番号を押し間違える場合があります。そのとき「送信スタート」のボタンを押してから間違いだったことに気づいたユーザーは、あわてて送信を止めようとしますが一旦、送信スタートしたものを止める機能がなかなか見つかりません。
 右往左往している間に見積書は結局間違った相手先に送られてしまいます。ファクシミリのメーカーには苛立ったユーザーからの問い合わせやクレームが数多く寄せられました。
 大企業から中小企業まで多くの企業でファクシミリが使われていましたが、通常ならできる操作でも緊急時にはできないことがわかり、メーカーは製品の仕様を変更しました。
 このような要素をもったタスクを設定することで、被験者が集中力を半減させ、製品の弱点が現実化しやすい状況を作り出すことができます。


 


●条件変化
例えば、オフィスのコピー機、あるユーザーがA4判のモノクロコピーを続けていたとき、途中で電話を受け、コピー機の見えない場所で、2分間相手と話しをする、その間に他の人がカラーコピーを1枚とる。
 電話を終えた人が、再び続きのモノクロコピーを始めるとき、コピー機がカラーモードに変っている。このように、ユーザーが気づかないうちに何かの条件が変っているケースです。人は条件の一部が変っていることに気づかずにタスクをやってしまう可能性があり、製品の弱点は現実化しやすくなります。


 


●ユーザー交替
あるユーザーが道具を使って作業している。電話がかかってくるなど、より優先度の高いタスクの発生によって、その人は作業を途中で止める。そして、代わりの人が続きの作業を引き受けるケースです。タスクについて、もともとのユーザーが知っていた知識、情報の一部は代わりの人に引き継がれますが、引き継がれない知識、情報もかなりあります。このために、後を引き継いだユーザーが判断ミスなどをしてしまうケースです。
 
 コンセントの話をしましょう。私たちが電化製品を使うとき電源につなぐための接続端子の受側がコンセントです。私のオフィスにはユーザビリティテストをするテスト室があります。 2口コンセントがあり、片方はラジカセ、もう片方はデジタルビデオカメラの電源用にプラグが差し込まれていました。
 私のオフィスはユーザビリティテスト(わかりやすさ、使いやすさのテスト)をしている関係上、ビデオカメラが沢山あります。私は、ビデオカメラのバッテリーを充電しようと思って充電器のACアダプターをこのコンセントのそばに持ってきました。普通に上の差し込み口にささっているプラグを抜こうとしましたが、抜けない。「あれ、?」と思いながらもう一度引き抜こうと試みたがなぜか抜けない。「差し込んだ人が、変な差し込み方をしたのかもしれない。」と思って今度は右手の親指と人差し指でしっかりはさみ力を込めて抜いてみた。でも、びくともしない。再度、必死に力を込めて、腕が筋肉痛になりそうなくらい力を入れてようやく引き抜くことができました。
 このときのプラグが抜けなかった体験を職場の技術に詳しい社員に話すと彼は「やってみましょう、力はいりませんよ」と言って指で挟んだプラグを少し左に回してから、あっさりプラグを抜いたのです。彼の説明によると、このプラグは、コンピュータなど突然プラグが抜けて電源が落ちないように一度、ひねってからでないと容易に抜けないように工夫された新しいタイプのコンセントだったのです。コンセントの上の差込口にプラグを差し込んだ人はこのコンセントの性質を知っていますが、後で他のプラグを差し込むために抜こうとした私には、そんな知識はありませんでした。そして、コンセントに新しいタイプのプラグがささった状態は、今までのコンセントにプラグ
が刺さっているのと同じように見えるのです。



●立姿勢、中腰姿勢
椅子に座った状態で道具を使うのではなく、立姿勢や中腰姿勢など疲れやすく、不安定な姿勢で長時間道具を使うと、身体的疲労によってユーザーの集中が途切れ、気づきが遅れ、適切な判断が難しくなり、使用ミスが生じやすくなります。このケースも、製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


●片手作業
普段、左手で道具本体を保持して右手の指で操作するなど、両手を使っている道具を、何らかの理由で片手で使わざるを得ないとき、ユーザーは勝手が違います。道具の重さで安定して保持するのが困難な場合もあります。しかし、雨が降る中で片手で傘を持って道具を使う、片手に別のものを持った状態で道具を使うなど、やむを得ず道具を片手で操作するケースです。
普段はやらない失敗をする可能性があり、製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


●併用、同時使用のモノ
CRX、キャノン、リコー、ゼロックスの頭文字です。オフィス用コピー機(複合機)の分野はこの3つのメーカーが世界シェアを分けあっていました。日本メーカーの得意分野の代表でもあります。したがって大規模なオフィスにおいては、フロア毎に異なるメーカーの機種が設置され、オフィスで働く人々はそれらの機種を同時並行で使うケースが少なくありませんでした。当然、メーカーによって操作の方法が結構違います。うっかり間違いそうになったり、間違ってしまったりということで、3社は操作性の共通化に取り組みました。コピーするときユーザーが設定した内容を取り消す操作などポイントとなるいくつかの操作性が共通化され、ユーザーの戸惑いを低減しています。
 このように、同じ目的で使う操作性の異なる道具が複数あり、ユーザーが並行して使う場合、あるいは、その道具の前工程や後工程で使う道具の操作性が異なる場合、知らず知らずのうちに影響を受け、ユーザーは使用ミスを犯かす場合があります。

  駅のトイレの話をしましょう。以前、勤務先が人形町にあった頃、私は地下鉄日比谷線の八丁堀駅でJR京葉線に乗り換えていました。ビールをたっぷり飲んでいた私は改札を入り、すぐトイレに向かいました。あなたも気づいていると思いますが、駅のトイレの入口付近には男子用か女子用かを示す案内表示が掲げてあります。片方はズボン、片方はスカート姿の見慣れたマークのあれです。
 はじめての人にわかりやすいように案内表示は2段構えに掲げてある場合が多いことはご存じの通りです。私は少し離れた位置に掲げてある1段目の案内表示を見てすぐにトイレの方向がわかり、さらに進んで入口を入ろうとすると、なんとそこは女性用ではないか。私はあわてて戻り、入口の直ぐ上にある案内表示を確認するとその入口はなんと、女子用でした。
 手前の1段目の案内表示では左側がズボン、右側がスカートだったのに、入口上の案内表示は左側がスカートになっています。私と同じように1段目の案内表示だけを見て入口に進んでしまうととんでもないことになるかもしれないのです。しかも、私と同じようにビールや酒を飲んで、いい気分に酔った人が駅のトイレを使います。電車の発車時刻が気になるのでトイレは素早く済ませたい場合もよくあります。
 この体験から1週間くらいたった夜の八丁堀駅で酔った中年の男性が駅員に叱られ、その側に若い女性が立っているところを目撃しました。余談ですが、この体験の後、私はは都内の地下鉄の駅30箇所くらいでトイレ案内表示を確かめたのですが、約半数は1段目の案内表示と2段目の案内表示は、男性と女性が左右逆になっていました。人知れず屈辱を味わった酔っ払いは少なくないはずです。

  例えば次のような場合は要注意です。同時に使う、または前後に使うモノの同じ機能に違う名前がついている。設定の順番が違う。OKと取消などボタン配置が左右、上下に逆転、色の意味が逆転しているなど。


 


以上、製品の弱点が現実化しやすいタスク要素について述べましたが、あなたが担当する製品に当てはまるものはありましたか?


 


 

プロフィール

HN:
小畑 貢
性別:
男性
職業:
ユーザビリティ・コンサルタント
自己紹介:
株式会社ヒューマンインタフェースの代表取締役 小畑 貢です。

弊社はユーザビリティ評価及び関連サービスを提供しています。
市販の商品や開発途中の試作品(ソフトウェア含む)を対象に、一般ユーザーが使用する様子を観察、分析し、ユーザーがどの程度使うことができるか、何を改良するべきかを提案します。

弊社ホームページもご覧ください。
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