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株式会社ヒューマンインタフェース代表取締役 小畑 貢 が使い手の世界についてのお話をお送りします。
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問題を見逃さないテストデザイン 14 最悪のシナリオ-3

最悪のシナリオ-3
製品の弱点を現実化しやすくする要素


たいていの製品は多かれ少なかれ、弱点を持っています。しかし、弱点があっても即、不幸な結果に繋がるわけではありません。弱点が現実のものとなり不幸な結果が起こってしまうには、弱点を現実化しやすくする条件が整う必要があります。では、弱点を現実化しやすい条件とはどんなことでしょうか?
これを参考にして私たちは、ユーザビリティテストの状況設定をすることができます。


 


要素1
弱点を現実化するタスク要素


 


タスクの内容に関してはどうでしょうか?あなたは、どういう要素を持つタスクが弱点を現実化しやすくすると思いますか?
一つでも二つでも思いつくことはどんなことでしょうか?


●マルチタスク
人が片手でスマートフォンを持ち、画面を見ながら道を歩く、T字路を通りすぎ、二つ目のT 字路にさしかかったところで、立ち止まりあわてて一つ目の角に戻って曲がって行く。こんな風景は珍しくありません。通い慣れた道でも何か別のことをしながらでは、やり過ごすのもうなづけるというものです。
このように、2つ、または3つのタスクを同時並行で行う、こういう要素のあるタスクでは、ひとつひとつのタスクに注意が行き届きにくく、製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


 余談ですが、娘が結婚する前、我が家には車を運転できる人が3人いました。娘と妻は運転が上手く発進も停止も静かでスムースです。その点、私の運転はとくに停止するとき、乗っている人の上体がカックンとなり気持ち悪いと評判が悪いのです。運転している私自身はとくに不具合は感じないのですが、いつも言われます。中でも娘は、運転中によくしゃべります。運転しながら込み入った会話を長々とするので私は、しばしば、話はいい加減にして運転に集中してくれと言います。娘は、決まって、運転なんて話ながらするものだ、黙ってやるもんじゃないと教習所の教官に教えられたと反論します。確かに運転は私より上手いので私はそれ以上言えません。
 電車やバスなどの公共交通機関の運転手は、マルチタスクの得意な人でないと困ります。大勢の命を預かる運転手は安全を守ることと 、ダイヤを守ること、二つの重要なタスクに取り組み続けます。どちらか一つに集中することはできません。
 
 ところであなたは、同時に二つ以上のことに注意をし続けるのは得意ですか?これについては個人差が大きいようで、普通にやれる人と不得意な人がいるようです。不得意な人に、マルチタスクをやってもらうと製品の弱点を、より現実化しやすくなりそうです。


 


11目標設定-2、マルチタスクを参考にしてください。


 


●繰返しタスク
同じ作業を繰り返し続けていると人は眠くなることがあります。その作業が単調であればあるほど集中を維持するのは困難になり、対象物への注意が散漫になって、使用ミスが生じやすくなります。単調な空いている道路を長い時間運転し続けると、人は居眠り運転しやすくなる。これは多くの人々が経験していることだと思います。単調な作業であっても、物理的作業の場合は身体の一部を動かしながら一定の作業を繰り返すことで、リズムが生まれる効果もありそうですが、身体の動きが少ない認知的な繰り返し作業となるとそうそう適度な集中を維持するのは難しくなります。
 このような要素をもったタスクを設定することで、被験者が集中力を半減させる状況を作り、製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


●緊急時タスク
タスクの時間が強く制限され、非常に急いでタスクを行わなければならないケースも私たちは、細心の注意を払ってタスクを行ことができません。
例えば、不意に予想してなかった来客があるケース、自宅でリラックスしていたあなたに知人から電話があり「途中まで来ている、あと10分で着きます」。部屋を散らかしていたあなたは大急ぎで掃除機を使い、テーブルの上を片付けます。丁寧に、隅々までしっかり確認しながら作業する場合ではありません。
  かなり前、ファクシミリがビジネスの高速情報伝達の主役だった頃があります。A4判1ページを1分で 送ることができました。代表的な使い方の一つに、見積書を送るという使い方がありましたが、送信するとき相手先の電話番号を押し間違える場合があります。そのとき「送信スタート」のボタンを押してから間違いだったことに気づいたユーザーは、あわてて送信を止めようとしますが一旦、送信スタートしたものを止める機能がなかなか見つかりません。
 右往左往している間に見積書は結局間違った相手先に送られてしまいます。ファクシミリのメーカーには苛立ったユーザーからの問い合わせやクレームが数多く寄せられました。
 大企業から中小企業まで多くの企業でファクシミリが使われていましたが、通常ならできる操作でも緊急時にはできないことがわかり、メーカーは製品の仕様を変更しました。
 このような要素をもったタスクを設定することで、被験者が集中力を半減させ、製品の弱点が現実化しやすい状況を作り出すことができます。


 


●条件変化
例えば、オフィスのコピー機、あるユーザーがA4判のモノクロコピーを続けていたとき、途中で電話を受け、コピー機の見えない場所で、2分間相手と話しをする、その間に他の人がカラーコピーを1枚とる。
 電話を終えた人が、再び続きのモノクロコピーを始めるとき、コピー機がカラーモードに変っている。このように、ユーザーが気づかないうちに何かの条件が変っているケースです。人は条件の一部が変っていることに気づかずにタスクをやってしまう可能性があり、製品の弱点は現実化しやすくなります。


 


●ユーザー交替
あるユーザーが道具を使って作業している。電話がかかってくるなど、より優先度の高いタスクの発生によって、その人は作業を途中で止める。そして、代わりの人が続きの作業を引き受けるケースです。タスクについて、もともとのユーザーが知っていた知識、情報の一部は代わりの人に引き継がれますが、引き継がれない知識、情報もかなりあります。このために、後を引き継いだユーザーが判断ミスなどをしてしまうケースです。
 
 コンセントの話をしましょう。私たちが電化製品を使うとき電源につなぐための接続端子の受側がコンセントです。私のオフィスにはユーザビリティテストをするテスト室があります。 2口コンセントがあり、片方はラジカセ、もう片方はデジタルビデオカメラの電源用にプラグが差し込まれていました。
 私のオフィスはユーザビリティテスト(わかりやすさ、使いやすさのテスト)をしている関係上、ビデオカメラが沢山あります。私は、ビデオカメラのバッテリーを充電しようと思って充電器のACアダプターをこのコンセントのそばに持ってきました。普通に上の差し込み口にささっているプラグを抜こうとしましたが、抜けない。「あれ、?」と思いながらもう一度引き抜こうと試みたがなぜか抜けない。「差し込んだ人が、変な差し込み方をしたのかもしれない。」と思って今度は右手の親指と人差し指でしっかりはさみ力を込めて抜いてみた。でも、びくともしない。再度、必死に力を込めて、腕が筋肉痛になりそうなくらい力を入れてようやく引き抜くことができました。
 このときのプラグが抜けなかった体験を職場の技術に詳しい社員に話すと彼は「やってみましょう、力はいりませんよ」と言って指で挟んだプラグを少し左に回してから、あっさりプラグを抜いたのです。彼の説明によると、このプラグは、コンピュータなど突然プラグが抜けて電源が落ちないように一度、ひねってからでないと容易に抜けないように工夫された新しいタイプのコンセントだったのです。コンセントの上の差込口にプラグを差し込んだ人はこのコンセントの性質を知っていますが、後で他のプラグを差し込むために抜こうとした私には、そんな知識はありませんでした。そして、コンセントに新しいタイプのプラグがささった状態は、今までのコンセントにプラグ
が刺さっているのと同じように見えるのです。



●立姿勢、中腰姿勢
椅子に座った状態で道具を使うのではなく、立姿勢や中腰姿勢など疲れやすく、不安定な姿勢で長時間道具を使うと、身体的疲労によってユーザーの集中が途切れ、気づきが遅れ、適切な判断が難しくなり、使用ミスが生じやすくなります。このケースも、製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


●片手作業
普段、左手で道具本体を保持して右手の指で操作するなど、両手を使っている道具を、何らかの理由で片手で使わざるを得ないとき、ユーザーは勝手が違います。道具の重さで安定して保持するのが困難な場合もあります。しかし、雨が降る中で片手で傘を持って道具を使う、片手に別のものを持った状態で道具を使うなど、やむを得ず道具を片手で操作するケースです。
普段はやらない失敗をする可能性があり、製品の弱点が現実化しやすくなります。


 


●併用、同時使用のモノ
CRX、キャノン、リコー、ゼロックスの頭文字です。オフィス用コピー機(複合機)の分野はこの3つのメーカーが世界シェアを分けあっていました。日本メーカーの得意分野の代表でもあります。したがって大規模なオフィスにおいては、フロア毎に異なるメーカーの機種が設置され、オフィスで働く人々はそれらの機種を同時並行で使うケースが少なくありませんでした。当然、メーカーによって操作の方法が結構違います。うっかり間違いそうになったり、間違ってしまったりということで、3社は操作性の共通化に取り組みました。コピーするときユーザーが設定した内容を取り消す操作などポイントとなるいくつかの操作性が共通化され、ユーザーの戸惑いを低減しています。
 このように、同じ目的で使う操作性の異なる道具が複数あり、ユーザーが並行して使う場合、あるいは、その道具の前工程や後工程で使う道具の操作性が異なる場合、知らず知らずのうちに影響を受け、ユーザーは使用ミスを犯かす場合があります。

  駅のトイレの話をしましょう。以前、勤務先が人形町にあった頃、私は地下鉄日比谷線の八丁堀駅でJR京葉線に乗り換えていました。ビールをたっぷり飲んでいた私は改札を入り、すぐトイレに向かいました。あなたも気づいていると思いますが、駅のトイレの入口付近には男子用か女子用かを示す案内表示が掲げてあります。片方はズボン、片方はスカート姿の見慣れたマークのあれです。
 はじめての人にわかりやすいように案内表示は2段構えに掲げてある場合が多いことはご存じの通りです。私は少し離れた位置に掲げてある1段目の案内表示を見てすぐにトイレの方向がわかり、さらに進んで入口を入ろうとすると、なんとそこは女性用ではないか。私はあわてて戻り、入口の直ぐ上にある案内表示を確認するとその入口はなんと、女子用でした。
 手前の1段目の案内表示では左側がズボン、右側がスカートだったのに、入口上の案内表示は左側がスカートになっています。私と同じように1段目の案内表示だけを見て入口に進んでしまうととんでもないことになるかもしれないのです。しかも、私と同じようにビールや酒を飲んで、いい気分に酔った人が駅のトイレを使います。電車の発車時刻が気になるのでトイレは素早く済ませたい場合もよくあります。
 この体験から1週間くらいたった夜の八丁堀駅で酔った中年の男性が駅員に叱られ、その側に若い女性が立っているところを目撃しました。余談ですが、この体験の後、私はは都内の地下鉄の駅30箇所くらいでトイレ案内表示を確かめたのですが、約半数は1段目の案内表示と2段目の案内表示は、男性と女性が左右逆になっていました。人知れず屈辱を味わった酔っ払いは少なくないはずです。

  例えば次のような場合は要注意です。同時に使う、または前後に使うモノの同じ機能に違う名前がついている。設定の順番が違う。OKと取消などボタン配置が左右、上下に逆転、色の意味が逆転しているなど。


 


以上、製品の弱点が現実化しやすいタスク要素について述べましたが、あなたが担当する製品に当てはまるものはありましたか?


 


 

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プロフィール

HN:
小畑 貢
性別:
男性
職業:
ユーザビリティ・コンサルタント
自己紹介:
株式会社ヒューマンインタフェースの代表取締役 小畑 貢です。

弊社はユーザビリティ評価及び関連サービスを提供しています。
市販の商品や開発途中の試作品(ソフトウェア含む)を対象に、一般ユーザーが使用する様子を観察、分析し、ユーザーがどの程度使うことができるか、何を改良するべきかを提案します。

弊社ホームページもご覧ください。
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