忍者ブログ
株式会社ヒューマンインタフェース代表取締役 小畑 貢 が使い手の世界についてのお話をお送りします。
[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

問題を見逃さないユーザビリティテスト7 よい被験者よくない被験者2

見つかった問題の数は少ないが、それぞれの問題を複数の被験者が起こしたケース1の方が好ましいでしょうか?それとも、問題を多く見つけられたケース2の方が好ましいでしょうか。

皆さんの答えはいかがでしたか? 
好ましいのは、問題を多く見つけられたケース2の方です。試作品に内包している問題を発見するために行うユーザビリティテストですからひとつでも多くの問題を見つけられることが大切です。
ケース1は、問題D、E、Fの3つを見逃していることになります。見逃した3つの問題のどれかが市場に出た後に大きな問題となり、メーカーの信用を失墜させることもありえるわけです。

ところで、ひとりの被験者だけで見つかった問題は本当は問題ではなく、大多数のユーザーにはあてはまらないかもしれないという考えについて、あなたはどう思いますか?

ユーザビリティテストで見つかる問題を、何人の被験者がつまずいたのかでみると、ほとんどの被験者がつまずく問題、2~3人がつまずく問題、1人だけがつまずく問題に分けられます。

ほとんどの被験者がつまずく問題
ほとんどの被験者がつまずく問題は本来はあってはならない問題です。ユーザインタフェースは、一般的な普通の経験をし、それなりの知識を持つ、普通の人が使うことを想定して設計されているわけですから、ほとんどの被験者がつまずくということはあまりにも、試作品の品質が悪いとんでもない問題と言えます。しかし、意外なことにそのとんでもない問題もまれに見つかります。

2~3人がつまずく問題
2~3人がつまずく問題は、私の経験では高い頻度で現れます。このケース、2~3人は確かにつまずいたのですが、残りの人達は同じつまずきをしていません。
何故、同じ箇所で、人によって操作につまずいたり、つまずかなかったりするのでしょうか?

知識、体験の差
道具を使う上での知識、道具を使う体験は誰でも同じわけではなく、ひとりひとり違います。その知識の中で、常識と言われる知識は同じ文化圏に住む人々であれば誰もが共通にもっています。交通信号の知識、人は右車は左という対面交通の知識、このような知識は日本人なら誰でも知ってる常識です。しかし、製品を世界中の人達に使ってもらうことを考えると、ご承知の通り対面交通の知識は国によって違います。日本人の常識は世界では少数勢力にすぎません。
私は以前、北欧の人達とユーザビリティテストのスケジュールについて打ち合わせをしたことがあります。等の話では、34から35週に準備をして、36週目にテストを実施しましょう、というような話になりました。ちょっと待ってください、私たち日本人は、10月中旬に準備して、10月下旬にテストを実施というように、月を10日間ずつ上旬、中旬、下旬と3つに分けて、スケジュールを考えます。35週とか言われてもイメージしにくいです。と言うと、あなた達の手帳には、1月1日の週を第1週として1年を通して何週目にあたるか、表記されてないのですか?とのこと。その当時、私が使っていた手帳にはそれは表記されていませんでした。しかし、最近の手帳には印刷されているものもあるようです。グローバル化の影響で欧州の常識が私達の常識に変化をもたらしているのかもしれません。
 
道具を使う上での知識といっても、常識のように殆どの人々に普及している知識もありますが、あまり普及しておらず、一部の人だけが知っている知識もあります。
 先日、九州の地方都市に住んでいる70歳の兄が、娘の結婚披露宴に来てくれました。彼は地元で買った紙の切符を持っていて、JR船橋駅の改札を出ようとしましたが、自動改札ばかりで、駅員は見当たりません。持っている紙の切符は自動改札のスリットには入りません。8つほどある自動改札の一番端が駅員のいる改札なのですが駅員は外から見えにくい室内にいるため気づきにくかったようです。改札を出るだけに数分もかかってしまいました。自動改札が沢山並んでいるところでは端に駅員がいて対応してくれると言う知識はありませんでした。彼は日頃、車での移動が多く駅を利用することはめったになかったのです。
 
電車通勤の定期券と言えば今ではSUICAなどのプリペイドカードですが、以前は改札口に立っている駅員に紙の定期券を見せるか、定期券を改札ゲートのスリットに差し入れて通るやり方でした。切り替わった頃は多くの人々が戸惑ったものです。かなり前ですが、私が香港に行ったとき地下鉄の駅で、エスカレータのスピードが予想外に速くてびっくりしました。もうひとつ、改札機に買った切符を差し入れるスリットがなく、ガラス面のような部分に紙の切符をいったん置くだけと言う作法の違いに戸惑いました。

未体験だったことを一度体験すると、私達は新しい知識を手に入れます。そして2回目からはその知識のおかげで戸惑うことなくできるわけです。ただ、2回目の体験があまりにも遅いと、人によっては知識を忘れてしまうかもしれません。道具を使うとき、同じ箇所でできる人とできない人がいるのは、その操作に役立つ知識をすでに持っている人と、その知識をまだ持っていなかったり、思い出せない人がいるためです。このことは、被験者選びに直結する重要なことです。

ひとりだけつまずく問題
ユーザビリティテストをすると被験者の中でひとりだけがつまずく問題が発生します。これはごく一般的なことで、ひとりだけだからと言う理由で本当に問題だろうか?と疑問視する必要はありません。被験者のつまずきが本当に問題なのか、本当は問題ではないのか?については、つまずいた人数とは関わりなく確認するべきことがらです。これについては別途、言及する予定です。
 ユーザーのことを深く考え、わかりやすさを確認しながら設計されたユーザインタフェースでは複数の被験者で発生する問題はほとんどなく、1人だけで発生する問題が多くを占めます。5~6人の被験者のうち、1人だけ(Aさん)がつまずいた問題を解決しないまま製品が発売されるとどういう結果になるでしょうか?仮に、その製品が30万個売れたとします。単純計算するとそのうちの5万人という大量のユーザーが同じ箇所でつまずく可能性があります。ある人はそのため10分間時間をロスし、ある人は先生ユーザーに教えてもらうまで数時間かかるかもしれません。ある人は使用を止めてしまうかもしれません。そのときのタスクが使用頻度の高いものだったり、安全や健康に関わる重大なタスクだったりすると、たったひとつの問題であっても深刻な結果を招きかねません。たとえ5~6人の被験者であってもそのひとりひとりは、その人と同じような経験をし、同じような知識しか持っていない類似の大勢の人々の代表なわけです。

6人の被験者
製品が内包しているすべての問題を見つけてくれる6人の被験者とは、どんな人達でしょうか? 6人の被験者、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさん、Fさんはどのようなプうロフィールの6人を組み合わせるべきでしょうか?もちろん、ターゲットユーザーという条件の中でのことです。
第一に、道具を使うスキルの低い人であること。これについてはすでに具体的な選び方を述べました。製品によってはスキルの高くない層から選ぶというケースもあり得るでしょう。

第二に、ひとりひとり道具使いに関わる体験の異なる人であること。これがとても重要です。 例えば、スマートフォンで使うカーナビアプリを開発し、試作版ができあがったのでユーザビリティテストをするケースを考えましょう。この製品のターゲットユーザーはカーナビを装備した中小型自動車に乗り、ナビの機能を使ってドライブしている20~49歳の男性だとします。6人の被験者を選ぶとして、あなたはどんな6人を選びますか?
道具を使う知識は経験によって蓄積されますから、様々な異なる知識を持つ6人にしたいので、様々に異なる経験の人を選びます。どんな経験をどのくらい経験しているか、どんな経験はしていないか、ということになります。まず経験の種類ですが、いろいろ考えられます。
(1)車自体のこと、乗っている車の大きさ、車の新しさなど。
(2)使用しているナビ自体のこと、メーカー、新しさ、操作はタッチ方式かボタン方式か、その他の方式か、
(3)車使用の目的、買い物、送り迎え、通勤、趣味、観光など。
(4)走る道路、高速道路、一般道、市街地、郊外など。
(5)使っているナビの機能、目的地設定、案内走行、施設検索、ラジオ番組を聞く、テレビ番組視聴、楽曲を聞く、ネット検索、電話、メールなど。
経験の種類の次は経験期間や使用頻度です。
(6)経験の期間、
(7)経験の頻度、
これらの経験の内容を質問し、回答を見ながら経験の差の大きな6人を選びます。経験Aの人と、経験Bの人、どちらを優先して選ぶか迷うときは、ターゲットユーザーに多いと思う人、より問題を見つけてくれそうな人を選べばいいでしょう。経験の種類によっては、○○の経験をしていたら評価対象製品の操作につまずく可能性はとても低いと思えるものもあります。そういった問題発見可能性の低い経験パターンを除いて、問題発見可能性が高いと思われる経験パターンの人々から選んでいくことになります。勿論、わかる範囲でのことです。

よろしければ、当社のホームページをご覧ください。
PR
プロフィール

HN:
小畑 貢
性別:
男性
職業:
ユーザビリティ・コンサルタント
自己紹介:
株式会社ヒューマンインタフェースの代表取締役 小畑 貢です。

弊社はユーザビリティ評価及び関連サービスを提供しています。
市販の商品や開発途中の試作品(ソフトウェア含む)を対象に、一般ユーザーが使用する様子を観察、分析し、ユーザーがどの程度使うことができるか、何を改良するべきかを提案します。

弊社ホームページもご覧ください。
P R