忍者ブログ
株式会社ヒューマンインタフェース代表取締役 小畑 貢 が使い手の世界についてのお話をお送りします。
[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

問題を見逃さないテストデザイン 11 テスト目標の設定-2

マルチタスク型製品の場合

自動車のカーオーディオを使うユーザーは、車を運転し走らせるというタスクと、音楽を聴くという2つのタスクを同時に行います。リビングルームの壁面にあるインターフォンのユーザーは、テレビ番組を視聴するというタスクをしている最中に来客を知るという2つ目のタスクをします。
入院患者の血管に薬液を投与するときに看護師が使うポンプ、投与には1時間も1時間半もかかります。その間、看護師は他の患者に薬液を投与したり、世話をしたり、別のタスクをします。
このようなマルチタスク型製品の場合、ユーザビリティテストの目標(知りたいこと)設定については、どのように考えたらいいでしょうか。

あなたはカーオーディオ製品のメーカーで開発中の試作機のユーザビリティテストを担当しているとします。
ドライバーが一般市街地を法定速度で自動車を運転中に、視線は前方を見たまま、左手の指を使ってラジオ番組を自在に切り替える新しい試作機が完成しました。カーオーディオの新製品です。AMやFM、ユーザーが好きなラジオ番組を自由自在に聴くことができるか、運転しながら視線は前方を見たまま、音量調節もしながら好きな番組を楽しめるかどうか、ユーザビリティテストで確認することになりました。使うのはドライビングシミュレーターです。

このケース、ユーザビリティテストで私達が知りたいこと、確認したいことは何でしょうか? テストが終わった段階で私達は何がわかればいいでしょうか? 少し考えてみましょう。あなたが思いついたことはどんなことですか?

目標1
視線は前方を見たままで、好きなラジオ番組を選び、音量調節して聴くことができるか、知りたい。

ですね。確かにそれは知りたいことです。開発プロジェクトリーダーの要求はそれだけです。
こんなケース、あなたはどうしますか? プロジェクトリーダーの要求はそれだけなんだからそれが確実にわかるように計画する、それだけでしょうか?
あなたが実際に車を運転していたとしたらどうでしょうか?
視線は前方を見たまま操作できると言っても、長い時間片手運転を続けるのは不安だと言う人もいます。あなたは麻雀をしたことはありますか?もうパイといいますが、中央に積まれたハイを他の人に見えないように一つずつ取るときに親指の平でなぞって模様を触覚で読み取ります。模様無しや、いーぴん(日の丸のような形)などはすぐにわかりますが、触っただけではわからないものも沢山あります。右手だけでハンドルを持ち、前方を見て運転している最中に、左手の指でスイッチを触り、あれ!これ文化放送かな?TBSかな?日本放送かも? と迷ったらどうなるんだろう。結局、視線を前方から左手に移したりするかもしれない。大丈夫だろうか? いろいろ疑問がありますよね。
そういう疑問の答が知りたいですよね。

つまり、次のことも知りたい。
目標2
走行中、視線を前方から左手に移した回数。
どの被験者もこの回数がゼロであれば、確かに前方を見たまま触角だけで操作できたと言えるでしょう。しかし、この試作機は新製品ですからユーザーははじめて見て、はじめて使います。使い方を理解し触覚だけでわかるようにある程度の練習も必要です。一定の練習をした後、タスクを10回繰り返し、毎回のタスクで「視線が左手に移動した回数」のデータが採れればいいでしょうね。もちろん理想はゼロです。

目標3
走行中、視線が左手に留まった時間
たまに視線が左手に移動することは全くないでしょうか。10回に1度、2度くらいあるかもしれません。ある程度視線移動はあるのが自然かもしれません。仮に、視線移動があった場合、視線が左手に留まる時間、言い換えると視線が前方を向いていない時間がどのくらいになるかは、とても重要です。1秒も2秒も視線が左手に留まるようでは、脇見運転していることになりますから、危険な運転になります。ですから、走行中の視線が左手に留まる時間は0.1秒の精度で測定する必要があります。

ここまで考えて、あなたの中に何か疑問は残っていませんか?
道路状況に大きく左右されるではないかと言うことです。
前方を走っている車が1台もなく、後方に続いている車もいない、そういうときなら、視線が左手に移動しても、視線を戻すのに1秒以上かかったとしても困ることはありません。しかし、時速60キロで走行中、すぐ前を車が走り、その車のスピードが速くなったり遅くなったりするときには、追突や後からの衝突の危険が高まり、視線は前方に釘付けになりがちです。こういった道路状況と走行スピードなどは適切な条件を設定することになります。

目標4
事故発生回数
ドライビングシミュレーターの仕様にもよりますが、前の車に追突せず、後ろの車から衝突されない、車線変更時に衝突しない、その他の交通事故を起こさないかどうか。これが一番大切なことですね。
ですから、事故発生がゼロだったのかどうか知る必要があります。
前方を見たまま、左手の触覚だけでカーオーディオの操作ができても、交通事故を起こしては元も子もありません。

以上のように、マルチタスク型の製品では、ユーザビリティテストにおける目標(知りたいこと)は、ふたつのタスクにそって設定する必要があります。自動車以外の分野の製品を扱っている場合は上記を参考にしてユーザビリティテストの目標を設定しましょう。
PR
コメントを投稿する

HN
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
管理人のみ閲覧可
プロフィール

HN:
小畑 貢
性別:
男性
職業:
ユーザビリティ・コンサルタント
自己紹介:
株式会社ヒューマンインタフェースの代表取締役 小畑 貢です。

弊社はユーザビリティ評価及び関連サービスを提供しています。
市販の商品や開発途中の試作品(ソフトウェア含む)を対象に、一般ユーザーが使用する様子を観察、分析し、ユーザーがどの程度使うことができるか、何を改良するべきかを提案します。

弊社ホームページもご覧ください。
P R