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株式会社ヒューマンインタフェース代表取締役 小畑 貢 が使い手の世界についてのお話をお送りします。
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問題を見逃さないテストデザイン 13 最悪のシナリオ-2

最悪のシナリオ-2

最悪のシナリオを検討するとき、私達はどのように何をしたらいいのでしょうか?

最悪のシナリオの検討
あなたが担当する製品の場合、どのような最悪のシナリオがあり得るでしょうか?そしてどのように検討したらいいでしょうか?個々の製品によっても、製品開発のタイプによっても大きく違うでしょうから、以下はヒントにしてください。
最悪のシナリオとは、「重大な結果につながる可能性のある事態が起こりやすい状況」と考えてください。

製品の弱点認識
小型ガソリンタンクの事例のように、製品には、こんな使い方をするととんでもない悪いことが起こると言うような弱点があります。まずは弱点をしっかり認識することです。
弱点とは、とんでもないことが必ず起こる、ではなく、起こる可能性があると思われることです。
開発中の製品の場合、「安全にお使いいただくために」「警告」「禁止事項」「注意」などとして取説や画面や現場に表示される予定の情報が参考になりますが、まだ出来ていない場合もあるでしょう。
そういう場合は、すでに市販されているシリーズ製品や、他社の類似製品を参考にできるかもしれません。

当然、開発者が弱点を充分認識していない場合もあると思われます。そんな場合はあなたが問題提起し、早目に製品の弱点を明確にしましょう。
開発が進み、発売間近になってから新たな弱点が見えてくると発売時期は遅れ、コストアップになり、本当に販売していいのか、振り出しに戻ってしまうこともあります。万一、発売後に重大事故が起こってしまうと一企業の問題ではすみません。大変な社会的制裁を受けて一瞬にして信頼を失ってしまいます。
ですから最悪のシナリオは早目に検討する必要があるわけです。

また、あなたが担当する新製品開発のタイプは、さまざまだと思います。あなたの会社にとってまったくの新製品なのか、機能アップ、コストダウン、季節に合わせたリニューアルなどのシリーズ製品なのか、製品開発のタイプによっても弱点把握は違ってくるでしょう。
まったくの新製品ではなく、シリーズ製品の場合は、最初の新製品開発のときに検討し決定した内容で安心してしまい、見直しを忘れがちです。ときどき報道される目を疑うような重大事故はとくに新製品ではなく、前々から家庭や社会のいろいろな場所で使われてきた道具類が多いように私は思います。
製品開発中に蓄積した情報だけにとらわれず、販売した後に使用現場から得られた新たな情報、新たにわかった自社製品の弱点をしっかり認識し、最悪のシナリオを再検討して欲しいと思います。品質保証は、開発が終わり、製品が発売されると開発中の作業は一段落しますが、決してそれで終わりではありません。使用現場から見つけた、製品の新しい弱点に立ち向かってください


私たちが被る被害
道具を使っていて私たちが被るかもしれない被害には、どんなものがあるでしょうか?
一般的に、次のようなことが考えられます。ユーザーやその周りの人が、この中の一つでも被害を被る可能性がないか、まっさらな気持ちで検討しましょう。
・生命の危険、機能障害、怪我、健康被害
・財産の破損、消失、被害
・金銭の損失
・信用の消失
・データ消去
・製品自体の破損、故障、使用不可

弱点を定義
弱点は次のように定義します。
製品を
(1)どんなユーザーが
(2)どんな環境で
(3)どのように使うと
(4)どんな悪いことが起こる。

と、このように使い方とその結果起こることをしっかり認識してください。製品によって使い方も結果として起こることも様々です。いくつか例を示します。

A・スマートフォンのアプリの例
例えば文字を書くアプリで、編集中に不用意に画面をタッチするとその後のタッチによっては入力済みのデータが消去されてしまいます。そんなの当たり前じゃないか、その通り当たり前です。私はこの原稿を電車の中でスマートフォンを使って書いています。体調のいいときばかりではありません。夜、疲れ気味で、言葉がなかなか出て来ないとき、気づくとつい居眠りということは少なくありません。そして、はっと気づくと入力したはずの文章がバッサリ消えてしまっています。
通勤電車の中でシートに座っている人の8割はスマートフォンか携帯電話を操作しています。歩きも含め移動中こそ、スマートフォンの主要な使用環境なのです。心地よく揺れる電車、スマートフォン使用、居眠り、タッチ操作。これは、タッチ操作であるスマートフォンならではの弱点ですね。

余談ですが、私たちが行う道具の操作は、3種類あります。
一つ目は、意図しない操作。うっかり操作です。本当はその操作をするつもりはないのに、本人が知らないうちに、うっかりやってしまう操作です。あなたも、パソコンやスマートフォンで文章を書くとき、たびたび経験しているはずです。ユーザビリティは、この操作を含みます。
二つ目は、意図した異常な操作です。道具本来の使用目的から逸脱した操作であり、ユーザビリティの範囲外の使い方です。
三つ目は、意図した正常な操作です。私たちが行う普通の操作で、もちろんこの操作はユーザビリティがメインに扱います。

B・携帯電話の例
携帯電話で、どんな状態でも、うっかり「キーロック」ボタンを押すと即入力不可になり、パスワードを入力しない限りロックを解除できないという機種を私は使っていました。
幼児たちは大人が使っている携帯電話に大変興味を持ち、大人が知らないうちにあれこれ操作しますし、私の孫は勝手に誰かに電話をかけてしまいました。その点、この機種は簡単に操作不可にできるのでメリットも大きいのですが、反面パスワードを知らないと元に戻せないという欠点があります。身近に幼児のいる人は、パスワードさえ覚えていればメリットの大きい機種ですが、そうではない人にとってはかなりの弱点になります。 私は携帯電話が突然使えなくなり大変な目に会いました。

C・家庭用血圧計の例
家庭用血圧計の供給電源、ACアダプターを間違えて定格の違うタイプを使うと血圧計が故障する。これは小型機器に共通の弱点ですね。例えば、弱点を克服するために AC アダプターの端子を差し込む口の付近に電源の定格表示の文字が刻印されているとしたら、ユーザーがそれに気づくか? 気づいても意味が伝わるか? その前に、たいていの血圧計は電池式だろうからACアダプターを使うことはないのではと思われるかもしれません。しかし、外国の事情は日本と同じではありません。結構、電池ではなくACアダプターを使う国があるようです。

D・自転車後部シートの例
若い母親がママチャリの後部シートに幼児を乗せて街を走る姿、私たちはよく見かけます。先日、私が仕事先に向かって歩く途中、母親のいないママチャリの後部シートに幼児だけが残され、自転車はスタンドで止まっている現場に出会いました。幼児は3才くらい目を開けて大人しくしています。母親は目の前のドラッグストアで買い物しているに違いありません。私は一瞬、危ない、子供が何かに気をとられて、急に後ろ向きになったら倒れるじゃないか、母親が戻って来るまで横で見ていようか? しかし、かえって子供が泣き出したりしないか、いろいろ気になって、気づいたら結局通りすぎていました。後になってから泣き出されてもいいから側で止まって見守るべきだったと後悔しました。ある時期、ママチャリの後部シートが走行中に車体から外れ乗っていた子供が怪我をする事故が報道されました。後部シートはオプションで自転車店のスタッフが取説を見ながら正しく取り付けてユーザーに渡すことになっていました。この問題は消費者庁で取り上げられ、シートの取り付けミスが指摘されました。正しく取り付けられていない場合、重大な事故につながる可能性があることが明らかになりました。製品の重大な弱点です。よく似た例に、自動車に取り付けるチャイルドシートがあります。取り付けている車の半数くらいは取り付け不良のまま大事な子供を乗せていることが報道されています。

E 立体駐車場の例
報道によると立体駐車場で毎年、事故が続いているそうです。報道で紹介された痛ましい事故は次の通りです。
立体駐車場に保管した車を取りだそうと、ユーザーが入口にあるコントロールパネルに自分の車の番号を入力すると、自分の車が載っているパレットが呼び出され下に降りてくる。この時、運悪く、降りてくるパレットの下を人が歩いていて、その方はパレットに挟まれ不幸な結果になってしまいました。立体駐車場の中には車があるだけで、人はいないという前提で利用していたと思いますが、そうではないケースがあったのです。たまたま、その立体駐車場は外部からの侵入を防ぐため周囲を取り囲んだ屏があったにもかかわらず、人が侵入できました。なぜ人は侵入したのか、報道によるとその人が帰宅するとき、立体駐車場の中を突っ切ると遠回りせず、早く家に着けたようです。いたずら好きな男性ならあり得ない行動とは言えませんし、普通の男性でも酒に酔った場合はあり得る行動のように思います。また、小学生、中学生の男子なら秘密の抜け道にしないとは言えません。人が侵入しようと思えばできる屏だったのだと思います。屏があるから人は外から絶対侵入できないという条件が崩れたとき、重大な事故が起こり得る仕様であったわけです。

F・小型ガソリンタンク
発電機の燃料を保管する小型ガソリンタンク、本来、先にやるべき「ガス抜き」をしないで蓋を開けるとガソリンが吹き出し、大火災になりかねない。前に述べた通り、これは大きな弱点です。

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プロフィール

HN:
小畑 貢
性別:
男性
職業:
ユーザビリティ・コンサルタント
自己紹介:
株式会社ヒューマンインタフェースの代表取締役 小畑 貢です。

弊社はユーザビリティ評価及び関連サービスを提供しています。
市販の商品や開発途中の試作品(ソフトウェア含む)を対象に、一般ユーザーが使用する様子を観察、分析し、ユーザーがどの程度使うことができるか、何を改良するべきかを提案します。

弊社ホームページもご覧ください。
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